979717 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

4、『睦言』


4:睦言



               H18,3/12 15:30


照明をしぼったほの暗い室内。
薄明かりから見てとれる室内からは、
品よく置かれている家具や、空間の広さ、
個人を主張する私物の無さから、
高級なホテルの1室であろうことがわかる。

カチッと鳴る小さな音を耳にして、ロイは閉じていた目を開く。
寝ていたわけではなく、運動後の心地よい倦怠感に浸っていたのだ。

「もう、帰るのかい。」
目を向けた先には、柔らかな曲線を見せる女性が
けだるげに起き上がっていた。

「ええ、そろそろ戻って明日の準備をしなくてはね。」
ロイの方を向かずに返事を返し、
乱れた髪を整える為に、手櫛ですく。

その髪がしなやかな背中に流れるのに、
ロイは思わず手を伸ばして触れる。

綺麗にカールされた髪は手触り良く、ロイの手の平を滑り落ちる。
ロイは 名残り惜しそうに、その美しく手入れのされた髪を
指に絡めたり、撫でたりを繰り返している。

「髪がお気に入りのようね。」
女性は、そんなロイの戯れに クスクスと笑いを漏らしている。

「ああ、見事な金髪で飽きないよ。」
そう言いながら、まだ触っているロイの手から髪を取り戻し、
「もう、お終い。」と微笑むとバスルームに消えていった。

彼女の消えた方向を眺めながら、ロイは彼女に言われた言葉を
ぼんやりと思い浮かべる。

『髪・・・か。』
そうだな、彼女に誘いをかけたのも 彼女のハニーブロンドの
髪に惹かれてではある。
彼女自身、美しく、聡明で、遊び心のわかる女性であり、
そういう半面が気にいっているのも、
長続きしている理由ではあるが、
1番の理由はと言われれば、彼女のご自慢の金髪にロイが執着しているからだろう。
ここ最近、ロイが付き合ってきた女性は 皆、美しい金髪の女性が多く、
中でも今の彼女が 1番、ロイの好みに近い髪色をしている。

明るい春の日差しで編みこまれたような、優しい色合いは
素直に美しいと思える。
ただ・・、ロイの好みから言えば 
もう少し、濃い色合いの方が好きな気がする。
春の日差しではなく、ジリジリと照りつけられるような
強烈な夏の日差しを具現したような金髪。
黄金を溶かし造られたと言われれば納得できるような
強烈な輝きを持つ位の髪色。
そんな髪なら、明かりの無い室内でも
きっと燦然と輝きを放っているだろう・・・。
が、そんな髪色をしている者は滅多にいない。
少なくとも、ロイのここ最近では そういう髪を持っている女性には
お目にかかった事もない。

それにとロイは思う。
多分、それ程の強烈な色合いは 女性には不向きではないだろうか。
髪色に遜色ない存在感を持ち主が発揮していないと、
宝の持ち腐れになってしまう。

『確か、誰かいたような・・・。』
燦然と輝く王冠を抱いて尚、自身の存在感には及ばぬほどの。
その美しい髪は その主の1部でしかないと思わせる程の誰かを。

ロイの心に一人の人物が浮かび上がろうとしていた時に
バスルームに消えた女性が、思考を霧散させた。

「ロイ、バスが空いたわよ。」

「・・・ああ」
浮かび上がって来る前に消えた残像を、ロイは深く追う事無く
思考を止める。
まるで、理性が 『追求をするな。』と警告を発したかのごとく。

「そうだな、私も いいかげん、戻る準備をした方がいいな。」
そう言って起き上がると、バスルームに身を隠した女性とは違い
堂々と一糸まとわぬ姿で歩いていく。
痩身ではあるが、バランスよく鍛え上げられ付いた筋肉は
同性からも羨望を受けるに値するし、
女性にとっては、その上に載っている顔も端麗となれば
うっとりとなる者が多いのも頷ける。

女性の身支度には時間がかかる・・・の言葉どうり、
ロイが バスから出てきても、
まだ 女性は鏡の前に座っていた。
ロイも、まさか職務中に石鹸の匂いをさせて帰るわけには
いかないので、シャワーを浴びてきただけの短時間だった事もある。
手早く身支度を整えると、美しい髪を整えている女性に声をかけ
先に出る事を告げる。

「今日も、楽しかったよ。
 また、逢えるのを楽しみにしている。」
彼女の髪を一房とり、
それに愛しそうに口付けを落として去る男の後姿を見つめながら

「ええ、また連絡をまっているわ。」
(貴方が、この髪にご執心の間は・・・)

頬に落とすより、唇に落とすより
多くの数を髪に口づけする男の心理など、
聡い女性にはお見通しだ。
彼が、自分の髪色に誰かを重ねている事等
最初からわかっていた。
救いは、ロイ自身 それに気づいていないという事だろう。
酷い男だと思っても、引き伸ばされる時間が長ければ良いと
願うほどには、彼女はロイが好きになっていた。
だからまた ロイからの連絡がある事を待ち続ける日を過ごす。
まだ、気づきませんように、
まだ、掴まえませんようにと願いながら・・・。






慣れとは恐ろしいもので、人の順応性は若いほど早いという事かも知れない。

今 ロイは、横に座る愛しい小さな想い人の髪に触れ続けている。
告白以来、最初は警戒と戸惑いを浮かべてロイに接していたエドワードだが、
ロイが あれから特にモーションをかけてくる事も、
何かを言われるわけでもないので、
日が経つにつれ、だんだんと警戒心を薄くするようになっていった。
そんなエドワードの様子を注意深く見守り、
ロイは 殊更、辛抱強くエドワードに接するようにしていた。
今やっと、手の平から餌を食べるまで近づいてきた小鳥を
自分の焦りで脅かし、飛び去られては元も効も無い。

ただ、忘れ去られて無かった事にされるわけにはいかないので
あれ以降、餌をちらつかせては 頻繁にエドワードが顔を出すように
させていた。

「禁帯書」や「軍関係」となると アルフォンスには見せれない。
なので、必然的にエドワードが一人 ロイの下に来る事になるのだが、
当然、ロイが企んだ結果である。

エドワードは、没頭しているときには
どんな状況化でも、気づかない。
唯一は アルフォンス位だろうが、今 ここには彼もいない。
なので、ロイが横に座り髪を玩んでいても気づかないというわけだ。
最初は、集中が切れたときや 読み終わった時に
自分に触れているロイに驚きもしたし、抗議もしていたが
特に それ以上の事もなく、文句を言うと あっさりと手を引くので
エドワードも 流れるまま成されるままにしてきた結果が、
慣れとなってる今の状況だ。
今では、ロイが触っている事に気づいても
嬉しそうな顔はしないが、ほっておいてくれる。

「ふぅ~。」
読んでいた書物から目を離す。
彼が 自分の世界から戻ってきた合図だ。
最近では、その後もロイは髪に触れる手も そのままだ。

「何か 役に立つ事はあったかな?」
掴んでも スルリと去る さらさらの髪に、
『持ち主同様だな。』と思いながら、また 次の一房を手に取る。

「う~ん、まぁ 新しい分野としては見れるところもあったけど、
 俺らの役にはあんまりたたねえかな。」
髪を玩ぶロイの手が鬱陶しかったのか、
フルフルと頭を振って、髪から手を離すように示す。

エドワードは、情報や知識に関しては 遠慮が無い。
ロイが どれだけ苦労して手に入れた情報も、
確認して、ダメならダメとはっきりと告げる。
また彼の そんな態度も、ロイは好ましく写るのだが。

策謀が渦巻く軍の中にいて、
自分の発言に言質をとられる事の無いように気をつけなくては
ならないロイにとって、
エドワードのように、自分の意志をはっきりと告げれる人間との会話は
清涼感があり心地よい。
彼は、気質どうり 物言いもはっきりとしており裏も表も無い。
子供だと言われればそれまでなのだろうが、
彼は決して、自分の発言に責任がとれない人間ではない。
自分の発言には自分で責任を持つという潔い心根が
彼の発言をはっきりとさせているのだろう。

頭を振られて取り損ねた髪を、性懲りも無く追いかける。
エドワードの髪は、絹糸のように滑らかで
掴んだ端から零れ落ちてしまう。
そんな感触も楽しみながら、ロイはエドワードの髪を楽しんでいる。

エドワードはエドワードで、そんなロイにあきれもするが
どうせ 時間が来れば、優秀な副官が時間の終了を告げに来るので
それまで、ロイの気の済むようにしている。

そんな風に エドワードの髪を触りながら ぼんやりとしているロイに
少々気になって、普段は気づいても声をかけないエドワードだが
今日は なんとなく声に出して聞いてしまった。

「・・・今日は何があったんだ?」
報告書に目を向けながら、躊躇いがちに聞いてくるエドワードに
ロイは ぼんやりとしていた意識をエドワードに向ける。

「何がとは?」
エドワードの質問の意図を掴めずに ロイが聞き返す。

「いや・・、別に 何でもないなら・・・。」
ロイに聞き返されて口ごもるエドワードを 不思議そうに見て
「鋼の。
 途中で止められては、わからないじゃないか。
 言いたい事は言ってくれて構わないんだよ。」

エドワードの顔を覗き込むように近づいてくるロイに
焦って身を離そうとするが、
気づいたロイが、嬉しそうに手を回し封じ込める。

「離せよ!」
頬を紅潮させて逆らうエドワードに、
ロイは 意地悪く質問の続きを聞く。

「嫌だね。
 君が 言いかけた事を話してくれるまでは、
 このままにさせてもらおうかな。」
そう言うと、回していた手に力が入り
近くなっていた二人の体が、さらに密着する事になる。

慌てたエドワードが、離れようともがいても
回された腕はビクともしない。
しばらく、「離せ」「嫌だ、話してくれるまで。」と攻防をしていたが
あわや、ソファーに押し付けられ乗りかかられそうなところまでくると、
さすがのエドワードも音を上げた。

「わかった、わかったから!
 話すから、ちょっと離れろ!」
息も荒く、両手を突っ張って抵抗するエドワードに
『そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。』と
少々、残念に思いながら身を離す。

「さて、私に何があったって?」
別に話してくれなくても、私には良かったんだがとは思うが、
折角、話すと言っているのだから仕方ない。

「・・・いや、何か嫌なことあったんだろ?」
そう控えめに聞いてくるエドワードに
ロイは 不思議そうに彼を見る。

そんなロイの反応に、エドワード自身が困惑を浮かべ
もしかして、自分の勘違いなのかと焦って口篭りながら
口早に告げる。

「だ、だってあんた、俺の髪に触る時は
 大抵、何か嫌な事とかあって 落ち込んでる時が多いじゃないか。」
それだけ告げると、照れ屋な彼は プイッと横を向いて顔を背けてしまう。

驚いたのはロイの方だった。
『落ち込んでる時に私が・・・。』
そう考えると確かに そんな時が多かったかもしれない、
エドワードの髪に無性に触りたくなる日は・・・。

今日も、エドワードが来るまでは 上層部の老いぼれどもとの
時間が無駄な会議とやらに出ていた。
大抵の事は聞き流せるし、堪えないロイだが
長時間、そんな我慢を強いられれば 暗くなるのは仕方が無い。
エドワード到着で気を良くし そんな事は忘れていたロイだが、
心の中に溜まる鬱憤は消えて無くなる事はない。

ロイは、耳まで紅くしてそっぽを向いてしまった
小さな子供を まじまじと見つめる。
では、この子は それがわかっていたから 
許していたと?
私が無意識に甘えている事を?

そう考え付くと、ロイの心でわだかまってた ドス黒い空気が
綺麗に流されていくのを感じていく。
広い草原の中、澄み切った風が押し去るように
彼の優しさがロイを撫でていく。
晴れ渡る草原には、暗い思いなど 今はどこを見ても見つけられない。

『彼の たった一言で・・・。』
ロイは自分の変わり身の早さがおかしくて仕方がなかった。
これほど、簡単に気持ちを切り替えれる自分がおかしく、
それ程、力を持つ この子の一言がおかしかった。

「まいったな・・・。」
ロイは 言葉に出してつぶやく。
エドワードが その言葉に反応して、振り向こうとするより先に
ロイは 後ろから、エドワードの肩に頭を落とす。

「お、おい・・・。」
ロイの行動の意味がわからず、焦って声を出す。

「少しこのままで。」
静かに請うように告げられるロイの声音に、
何か感じるものがあったのか、
エドワードは そのまま黙って、ロイの気の済むようにさせてやる。

ロイは静かに、エドワードの肩に頭を落とし考える。
護ってやりたいと、
甘えることをしらないこの子供に優しくしてやりたいと、
そう考えていたのは自分の方なのに、
気づけば、自分が この子供に慰められていたとは・・・。
この子供の度量の広さに、ロイは敵わないと思うが
悔しさはない。
逆に、小さな身体で 精一杯にロイを受け止めようとする子供に
さらに、深く強い愛情が込み上げてくるばかりだ。

肩から少し頭をずらすと、美しいロイが望んでいた色合いの金髪が目に入る。
『そう、この髪だったんだ。
 そして、この子だったんだ。』
ロイが 女性にずっと面影を重ねていた色が、
今は わかっている。
自分の想いに気づかなかった頃から、ロイは この髪色を持つ
この子供を渇望していた。

ロイは、すっと腕を上げると 
焦がれ続けた髪に触れる。
黄金を溶かして造られた髪は燦然と輝いている。
この髪なら、暗闇でも光を放つだろう。
そして、その持ち主は 
ロイが暗闇に落ちても、必ず 戻れる道しるべの光となるだろう。

今はこうして、慰めてくれる為に髪を捧げてくれているが、
いつまでも 慰めだけでは物足りない。
近い内には
必ず、この髪に どれだけ焦がれていたかを教えてやろう。
その時は、ベットの上での睦言として・・・。



[あとがき]

17WORD 4、「睦言」です。
大人向けを目指して書いている17WORD。
ちょっとは、大人っぽく書けているでしょうか?
何か、てれが入ってしまって 
エロい雰囲気にならないのが難点です・・・。(笑)
まぁ、でもエロ有り目指して17WORDに取り組んでいるんで
自分なりに頑張ってみます。(笑)



© Rakuten Group, Inc.